ボルヘス怪奇譚集 / ホルヘ・ルイス・ボルヘス、アドルフォ・ビオイ・カサーレス 柳瀬尚紀訳

物語の醍醐味此処に在り。
序文でオチてるようでいて本文と併せて初めてオチる(私は序文のみでは出来なかった)ところが巧い。
選者二人が書き手としてのみならず読み手としても優れているので、この本は掛け値なしに面白いと断言できる話の集まりであり、そして単なる物語の抜粋以上のものになっている。
怪奇譚集とは云っても笑えるものも多いので、タイトルはあくまでも「奇怪な話」程度に捉えておいて構わない。しかし文字の裏に在る何物かが読者の頭の中で結びついたとき、言葉にならぬ驚愕が訪れる。その感触は確かに怪奇物のソレと重なる。ぞっとする面白さってそういうこと。

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もの食う人びと / 辺見庸

それでも食べる。
食を見詰めると如何しても逃げられない問いを突きつけられる。
自分に近しいあたりとして、何処かの長官だったかの倹しい食生活と実は甘味が好きというエピソードが気に入っている。「空腹を収めるために食べる」は私的に食生活の標語。
舌と胃袋に渇を入れれてくれる一冊。ダイエットにもいいかもね。

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見えない都市 / イタロ・カルヴィーノ

これはやられた、殿堂入りの一冊。
マルコ・ポーロがフビライ・ハンに語る、数々の不思議な都市の話。奇怪な紀行文、或る種のユートピアもの、都市によるメタファ……何とも云えるけど、やっぱり形而上が絡むとヨロけちゃいます。
それは単にお前の空想の中のものではないのか、とかいうハンの突っ込みにも怖じずに答え返すマルコにぐっとくる。そしてやがてマルコのように見えない都市を語り出すハンにもぐっとくる。二人が唯我論的な会話を優雅なまでのテンポで語るとこなんぞ、余りにも息が合っててこっちの脳までとろけそう。

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不在の騎士 / イタロ・カルヴィーノ

どんどんいこうぜの勢いでカルヴィーノ二冊目。ちょっぴりコメディタッチに描かれる、鎧の中はからっぽな騎士・アジルールフォとその周囲の人々の話。単なる騎士モノの話ではなく、『木登り男爵』『真っ二つの子爵』と並ん「存在」を回る三部作。
最後までどんでん返し有です。お楽しみあれ。

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ラヴクラフト全集 / ハワード・フィリップス・ラヴクラフト

まだ1冊読んだだけなんですけどね。興味があったから手にとったんだけど、ラヴクラフトは常識(笑)の範囲内として読んでおくべきという気分もあった。(笑)
それはさておき。執拗に重ねられ高められ膨らまされていく物々しい雰囲気と、大抵の場合ラストで明らかになる「語り手の狂気」がツボっちゃうと一気に読破したくなる。聊か古典的というか、ゴシック小説的な感触はポオとも似てる。
「インスマウスの影」は随所で魚臭さが漂ってきた。ホラーで五感に関する描写を入れるっていうのは良い手法だなあ。強度の生理的嫌悪というか。

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超人 高山宏のつくりかた / 高山宏
超人ていうか学魔。かなりやられた。主に氏の回想的を軸とした、軽妙な文章から成っていますが、その内容だとか知の横断具合が超人的なので、読んでるうちにもう笑えてくる。もうこの人大好き。この本の読了を機に、己の肩書きに「学魔見習」を付加しました。松岡正剛とか荒俣宏が魔王として挙げられていましたが、私としては高山氏は魔神候補の大・学魔王だと思います。

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人間椅子 / 江戸川乱歩×ヤン・シュヴァンクマイエル
これは買わざるを得ない。乱歩の人間椅子に於ける触覚表現に着目したシュヴァンクマイエルがコラージュをつけたもの。話自体はもう文句無し。そしてシュヴァンクマイエルのコラージュは触覚に訴えかけるような材料を用いて作られているんだけど、作品を見ているだけでも結構伝わってくるものがある。名作を一風変わったアプローチで如何ですか。

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フラジャイル 弱さからの出発 / 松岡正剛
氏の本はもう何冊か読んでおり、千夜千冊もお世話になっているので、さくさくと読み進められました。あとは専門柄鍛えてる感覚も役立った。フラジリティというめがねを掛けて世界を逆さまから見てみよう。

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日本数寄 / 松岡正剛
実は読了してませんが面白かったので紹介。日本文化には物凄い疎いので、あたかも日本マニアのノンジャパニーズのようなテンションで楽しみました。知ってるようで知らないとかいうレヴェルじゃない。日本文化、奥が深すぎる面白すぎる。京都に居るうちに、彼方此方回っておかないとなー。

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宿命の交わる城 / イタロ・カルヴィーノ
文学の魔術師カルヴィーノの世界に参入も3冊目。語り手が並べたタローの札から、「私」がイコノロジィ的な解釈を抜きに物語を読み取っていく。そしてその札の並びに触発された別の人物がまた、新たなカードを揃える形で物語を続けていく。人と人の物語が交わり、離れていく。並べられるタロットの中で、城で、酒場で。 なんというアルス・コンビナトリア!『見えない都市』に似たパズル的な形式も面白いですが、やっぱり物語そのものの面白さと、物語を抜け出ていくメタ的脱出の面白さが半端無い。
第一部「宿命の交わる城」、第二部「宿命の交わる酒場」と続いた後の「私自身の物語を求めて」で、「今、ここに居る私」自身の物語が問われるところが、メタの脱出部分になります。そして最後にある「狂気と破壊の三つの物語」。タローで語るという形式を用いて、『リア王』『マクベス』『ハムレット』が同時進行します。沙翁なんぞ一作も読んだことないのに、次々並べられていくカードに翻弄されるかのように先を追うのが止められない。最後は勿論悲劇で、カードは再びかき混ぜられて、束になり、物語は宇宙へと消え去りました。此処へ来て、人も物語も宿命も、生まれ、消えていく。その儚さを如実に感じさせられるラストでした。
こんなこと、カルヴィーノ以外の誰が出来たでしょうか!?殿堂入りだ!!

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九龍城探訪 魔窟で暮らす人々 -City of Darkness-
呆然とするほどの規模と息詰まる密度のスラムを覗いてみれば、其処は政府御手上げの魔窟。むせ返る様な生活臭、衝撃的なまでのvitality、眩暈を覚えるreality。
ひしめくパイプ、劣化したコンクリート、生ゴミ、汚れた水、お世辞にも良いとは言い難い衛生環境。濡れた薄暗い路地も、捌かれる豚も、埃っぽい工場も、何よりそこで寝起きして生活している人々の姿も、長い歴史も、現代日本で暮らす私たちからは程遠い。それが日常なのだ、と言われれば確かにそうなのだけど、生温い想像を消し去るものがある。
歯科技師、牧師、売春宿、ヤクザ、職業一つとってもあらゆるものが濃縮されている世界。昔はそれこそ無法地帯だったようだが、人々の協力により九龍城は崩壊することなくその命を保ってきた。此処には本当に何でもある。……と言いたいところだが、残念な事にもう取り壊されてしまった。建物自体の危険は承知しているが、本当にそれでよかったのか、と、読んでいくうちに必ず思う事だろう。
人々が独自のルールとノウハウと知恵を駆使して維持してきた九龍城の歴史は余りにも重く深く大きい。清潔/平和/裕福でない故の力強さには、ただただ感服し力付けられるばかり。単にこの外観に魅せられた方も、人々の生活が気になる方も、九龍城の発生/発展が気になる方も、取り壊し前の人々の声を聞きたい方にも。

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幻獣辞典 / ホルヘ・ルイス・ボルヘス、マルガリータ・ゲレロ
幻獣、それは「われわれの想像の産物は死産児である」ことのみが嘆かわしい、何時までも魅了される生き物。古今東西の姿形・生息地・発生の経緯・時と場所による変形を余すところ無く記した一冊。
そのまま不可思議な生物を見に行くもよし、秘められた背景やメタファを探るもよし、この本からさらに遡り、それらの生き物に会いに行くもよし。日本語版のみについているという注釈も非常に役に立ってくれる。
後書きで「怪物」ボルヘスについて触れているのもとてもよかった。アスタリスクマーク以下に続く言葉も良かった。
会いに行きましょう、忘れられた生き物たちに。架空の生物のうちに宿り人の心は遊ぶ。

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