c o n s e c r a t e d  
は未開の地を造り、未知の動物を造った
彼は創造に自惚れることなく被造物に驚嘆する
目眩めく宇宙の神秘を語ってみせる一方で
舟を漕いで一年を巡っていく妖精の儚さにも大なる心を寄せる

難事件を解決する名士の聡明さは 彼の僅か一部
メルツェルのからくりをも見抜き
魂を掛けたエカルテで悪魔に勝つ
時に虫を人間に勝利させ 時に人間をペストに勝利させたのは 彼のユーモア溢れる采配


にもかかわらず 多くの人々は
恐怖と惨劇 幸福ならぬ男女 酒と阿片と狂気ばかり取沙汰している

片目を抉られた挙句 縄に掛けられた黒猫
壁に埋め込まれた妻の腐乱死体
幻視者(ヴィジョナリィ)は墓を暴き従妹の歯を引き抜く
怪奇趣味の寺院と阿片の幻覚
それ以上に黒曜石の瞳に憑かれた男
病に壊滅しゆく国 毒を煽るアフロディテ
まんまと復讐を遂げた男はお咎めも無しのまま

多岐に渡るは 他でもない神の仕組んだ悲劇
彼が好しとして作らなかった悲劇など一つとしてない
全ての偶然と不可思議な錯乱 抗い難い誘惑の裏では 神が巧みに糸を引いている

しかのみならず、神は様々な姿をとって悲劇に参加し、我が手で実行すらしてみせる
顔の無い処刑人たちに紛れては残酷な刑を執行し
荒ぶる炎の馬となってかつての主人の敵を死に追いやる
悪魔閣下に転じた暁には嘲るように料理人の魂を奪って喰らい
血染めの死に装束を纏っては望まれず宴に現れもし
人面の麒麟王となった際は千人のユダヤ人を自ら殺し 褒め称えられた


(――ああ安らかに眠れ全ての屠られし魂よ――)



彼の人は冷酷無情なりやと云うのはまだ早い
幾つもの宝玉を矯めつ眇めつするうち
内部で煌く小さな結晶は混じりあい消えていく
生きながらにして葬られた妹と 過ちを犯した兄は 同じ沼の深みに沈む
その玉を指先から生んだ神は 走り去ることなくずっと沼に留まり
崩れ落ちた彼らのことを見守っている

そしていつも私たちが思い出すのは――
分身を殺し、自らもまた破滅に至った男のこと


同語反復(トートロジー)を  修辞(レトリック)を抜きにして
加害者と被害者が 殺すものと殺されるものがひとつになる
損なわれたのは両者だ
彼らは一つの運命の為に聖別されたひとつの番いであったから

供された者たちを見て
求め 差し出した自身が涙を流す
密やかに――




 * * *



私達はを知っている――実際に知り合いになったものは誰一人として生きてはいないが
彼が設立を試みただけに終わった一つのクラブと会員の数の変動、
弟子たちの栄枯盛衰まで――
私達はただの人間に過ぎないにも関わらず
神とその行動を俯瞰で観察し 考察までしてみせる
(私達が彼の子供であることには中々気付かないのだが)

ただ時間が経った、とても長く経った
それだけで この私達が 或る意味に於いて本人よりも彼のことをよく知る
不運や 名誉と成らぬ事までも――

早くに彼の元を去った母、歌の最中に血を吐いた幼な妻
終ぞ絶てなかった酒、抑鬱と神経の乱れ
親の代から彼の元を離れる事のなかった貧困は いつも彼の仇敵だった
だから彼は絶縁状の直後に援助を請う手紙を書き
病に伏せる妻を 自身の外套と愛猫だけで暖める

10月3日、ボルティモア市内の路上で苦悶していたのは一体誰だろう
冷酷非情な悲劇を好む神か
機知に富んだ鬼才の作家か
ただの貧しい 不幸な男か


10月7日、日曜日、午後五時、遂に彼は身罷った


彼を偲ぶ時 私は他の人々と同じように悲劇という言葉を思い浮かべる
天才『的』と称するに相応しく 多くのものの祖となった彼と
彼が書いた悲劇にも似た 蝕まれた四十年の生とのバランス(つりあい)

死後に比類なき名声を得 数多の後継者を生み出したとしても
その生は悲劇だろう


しかし――


悲劇を生きるのは神から見放された者ではない
それどころかむしろ逆で 不幸は特別な印であり
私たちは凄惨な悲劇に胸を奮わせつつ 憧れを抱く

人一倍の苦境に遭ってもがき苦しみ 絶望に死に行く者は英雄である
猛毒を煽る者に人は憧れる 瘴気の中で生きようと足掻く者を人は賛美する
何故ならそれが 特別な人物のみが生きることを許される ひとつの完成された運命だから

だから彼の人生は 神の、神と呼ぶに値するなにものかの記した傑作の悲劇であり
選ばれた役者 エドガー・アラン・ポーその人は 紛れも無く聖別された男なのだ



" will this tragedy be performed again ? "
" ... ... never more . "



Edgar Allan Poe 1809.01.19 - 1849.10.07
requiescant in pace.





付け焼刃臭と未昇華臭。然れども長々云い訳はすまい。
ポォ未読な方の為、見えないところに或る物が隠してありますが、
これから読むつもりの方は見ないほうが良いでしょう。そんな矛盾。



please close this window and make the sign of the cross ...... for him.

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