放 浪 序 章




 あらいざらいの荷物を持って果てしない放浪の旅に出た深夜。
 場末の狭い喫茶店にて落ち着こうとするが、
 不安や葛藤で気が立って仕方ない。
 暗い黄色のランプに照らされた店内は
 何をするでなく溜まる常連だらけだった。

 四人掛けの隣のテーブルには、会話の無い女が三人。
 薄いキャミワンピだけで椅子に寝そべるように座り、
 テーブルの上に食べ物やゴミ、食器を散らかしたまま
 ぼんやりとしている。

 私が手洗いから戻ってきた自分の席に戻ろうとすると、
 一人の女が椅子を思い切り下げて座っているので通れない。
 椅子を叩いて引いてくれるように合図するが、
 彼女は私の事をねめつけ、揶揄するように笑うだけだった。

 私はその視線と態度に抗議するように、一層激しく椅子を叩いた。

 かんかんかんかんかんかんカンカンカンカンカンガンガンガンガンガンガン

 女は動く様子をまったく見せず、連れも放心したように宙を見つめている。


 このクソ売女が。


 私は強引に椅子と壁の間をすり抜け、誰も座っていなかった椅子を持ち上げて
 机の上に思い切り叩き付けた。

 

ガチャァァンッ!


 ソーサーやカップ、グラス、皿が割れ、
 破片が飛び散り、
 薄着の女に刺さる、
 血が流れる、
 私にも刺さる、
 私からも血が流れる、血が流れる。



 それでも女達は悲鳴一つ上げなかった。

 私は腕に刺さった硝子の破片を探りながら、
 荷物をまとめて喫茶店を早く立ち去ろうと、
 新たな焦燥に駆られていた。





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