さて今あなたの目の前にひとつの食物が差し出され、
味わわれるのを待っている……

摂取する前にそれは否が応にも視覚と嗅覚に訴えかけてくる。好ましい食物かどうかは一目瞭然であるし、嗅覚に注意を払えばその味を想像する助けにもなろう。

美味なるに相違無しと見えたそれを、あなたは手にしたカトラリィを使って口に入るサイズに切取り、咀嚼する。ものによっては時間がかかるし、見た目や匂いからは思いもよらなかった味をしていることもある。食べるに耐えられない程であれば、吐出しても責められはしないだろう。

飲み込まれた食物は胃袋に辿り着き、そこでゆっくりと消化されるが、あなたはその事を意識しない。その間にも食物の含有する成分は腸で吸収され、そのかすや吸収仕切れなかった分は自動的に排出される。

食物が消化器官を通り抜ける間には、栄養素とともに毒素も身体に取り込まれる。どれだけ安全に思える食べ物でも幾らかは毒を含んでいるものだ。体内の酵素が分解に奔走し無毒化を図るが、その生理的な動きもまたあなたの知らないうちに行なわれる。

分解されることも、排泄される事もなかった毒素は体内に蓄積されてしまう。どの程度の量に耐えられるかは個人差があるが、本人に対して毒が強過ぎる場合は医療的な措置を施さなくてはならない。さもないと身体に異常をきたすのは明白である。病の発症を経て回復する場合が有るとは雖も、闘病は決して楽では無いし、身体が負担に耐え切れなければやがて死に至る。その事を決して忘れてはならない。


あなたの身体を構成しているのは食物そのものではない。
しかし、食物無くして身体を作り上げる事が出来るだろうか?


さて今あなたの目の前にひとつの書物が差し出され、
読まれるのを待っている……

摂取する前にそれは否が応にも物理的な視覚と精神的な嗅覚に訴えかけてくる。文章を見れば好ましいものかどうかは一目瞭然であるし、漂う気配に注意を払えば内容を想像する助けにもなろう。

興味深いに相違無しと見えたそれを、あなたは自分の持つ様々な道具を使って断片化し、解釈する。ものによっては時間がかかるし、一瞥や勘からは思いもよらなかった主張をしていることもある。もし読むに耐えない程であれば、読破を断念するのも妥当だ。

理解された意図は記憶に蓄積され、ゆっくりと同化していくが、あなたはその事を意識しない。その間にも書物の含有する要素は脳で吸収され、そのかすや吸収仕切れなかった分は自動的に忘却される。

本文が解釈をされる間には、有益な情報とともに毒素も精神に取り込まれる。どれだけ平凡な思想に見えても欠点は存在するものだ。脳の機構が防衛に奔走し負担を避けるが、その生理的な働きもまたあなたの知らないうちに行なわれる。

解釈されることも、忘却される事もなかった毒素は脳内に蓄積されてしまう。どの程度の量に耐えられるかは個人差があるが、キャパシティに対して毒が強過ぎる場合は医療的な措置を施さなくてはならない。さもないと精神に異常をきたすのは明白である。病の発症を経て回復する場合が有るとは雖も、闘病は決して楽では無いし、身体が負担に耐え切れなければやがて深刻な問題になる。その事を決して忘れてはならない。


あなたの精神を構成しているのは書物そのものではない。
しかし、書物無くして精神を作り上げる事が出来るだろうか?





2006.11.02
読むニアイコール喰う、ということで。随分仕上げるの遅くなった。

please close this window and have a good meal.


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